「クリスマス・キャロル」(ディケンズ)①

自分の未来は変えられる、そう力強く教えてくれる

「クリスマス・キャロル」
(ディケンズ/池央耿訳)

 光文社古典新訳文庫

クリスマス・イヴ、
守銭奴・スクルージの前に現れた
三人の精霊。
第一の精霊は
過去の自分とその周囲の人々、
続く第二の精霊は
現在の彼の周囲の
貧しくも心清らかな人々の
姿を見せる。
そして第三の精霊が
彼を導いて見せたものは…。

スクルージが見たものは、
自らのみすぼらしい死の風景でした。
自分の救われない未来の姿を見て、
彼は己の生き方を
変える決意をするのです。

もしかしたら本作品を、
悪人が善人に改心する物語と
誤解されている方も
いるのではないかと思いますが、
決してそうではありません。
スクルージは悪人ではないからです。
法に背いて
金儲けをするわけでもなく、
弱者をいたぶって
稼いでいるわけでもないのです。
厳格すぎ、杓子定規であり、
彼の思考に人の情けや感情を
考える余地がなかっただけなのです。
だからこそ、
生き方を変えることが
可能だったのでしょう。

本作品の本質は、
「未来は変えられる」ということ、いや、
「未来は変えられる」と信じることの
大切さなのだと考えます。
第一・第二の精霊が
雄弁だったのとは対照的に、
第三の精霊は
彼に言葉では何も示しません。
彼自身が気付くのです。
「人のふるまいは、
 そのままにしていれば、
 必ず行く末を指し示す。
 だが、ふるまいを変えれば、
 行き着くところもまた変わる。」

今の子どもたちは
努力することが苦手です。
「努力した結果、
達成感が得られた」という
経験に乏しいからです。
そうした経験を得られる環境が、
以前に比べて激減しているのです。
そのため、
人生はなるようにしかならないという、
諦め感が蔓延しています。

世の中はそうではありません。
私たちが得ている「結果」は、
私たちがそれまでしてきた
「選択」と「行為」の積み重ねの
延長線上に存在するのです。
「選択」と「行為」が変われば、
自ずとその先の「結果」も変わってくる。
私はそう思います。

第三の精霊が、
彼の問いかけに
全く答えなかったように、
そして本作品には
彼の未来がどう変わったかが
描かれていないように、
生き方の変化が
将来を確実に変えるかどうかは
わかりません。
しかし彼の変容は、
限りなく幸せな未来を
示しているように感じられるのです。

「自分の未来は変えられる」。
そう力強く教えてくれるのが
本作品です。
諦め感を感じている子どもたちには、
格好のクリスマス・プレゼントに
なるでしょう。

(2018.12.24)

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